先日、ベランダ喫煙で訴訟に発展したというニュースを見ました。思い返せば私もマンション住まいだったころ、ベランダ喫煙が迷惑だなと思った経験があります。
なので記事内容を読んで大変心が痛みました。Yahooニュースだったので、コメント欄を読んでみるとさらに共感。と同時に、
あれ、薪ストーブと同じじゃん。
と思いました。
本記事ではベランダ喫煙訴訟のニュースをネタ元とし、薪ストーブ問題と絡めて考えてみました。
最初に結論から書いてしまいます。
結論:タバコと同様、薪ストーブも訴訟による解決は難しそう
薪ストーブの煙で悩まされている人には、残酷な内容かもしれません。ですが現実から目を背けたくないと思い、記事にしておこうと思います。
ベランダ喫煙での訴訟の内容
まずはニュースの内容をご紹介します。詳細を知りたい方は、文中に引用リンクを貼っていますのでそちらをご覧ください。
訴訟にいたるまでの概要
60代男性(以後:原告)が、真下に住む70代男性(以後:被告)に対し訴訟を起こしました。
訴訟に至るまでについて、箇条書きでまとめます。
- 被告は自宅をリフォームした
- 「部屋を汚したくない」とベランダで喫煙するように
- 1日20本弱のたばこを吸っていたという
- 令和元年に原告が抗議した(それでも4年ほど我慢したそう)
- 翌年にも抗議した
こういった経緯があり、最終的に約6年間も受動喫煙を強いられたとのこと。結果心臓の病気を発症し、550万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こしています。
ちなみに、抗議の内容はニュースサイトではこうなっていました。
迷惑行為をやめろ
なぜベランダで喫煙してはいけないのか
迷惑行為を止めてほしいのも、自分の家でタバコを吸って何が悪いというのも、ある意味わからなくもありません。
このような言い合いは、個人的にはとても既視感のある内容に感じます。
健康被害の証明
原告は、PM2.5測定器を計3台ベランダに設置されていたようです。客観的被害を証明するのに、一般人が手軽かつ継続的に測定するにはPM2.5が適しているからでしょう。
例えばタバコは約4000種類の化学物質が含まれていると言いますが、分かっていても全てを測定することなど不可能ですので。
ニュースによれば、実際にPM2.5が環境基準を上回ることが頻繁にあったとのこと。「頻繁に」というところが分かりませんが、これについては後ほど触れます。
判決
この辺りはまるまる引用した方が誤解を招かず、分かりやすいので引用します。
昨年9月の1審大阪地裁判決は、測定値について「喫煙以外にも変動要因があり、原因を推測するのは極めて困難」と信用性を否定。被告の説明を覆す証拠はなく、1度目の抗議以降はベランダでの頻繁な喫煙は認められないとした。
自宅での喫煙は基本的に個人の自由としつつ、「近隣住民に重大な健康被害を受けやすい疾患があることを知りながら、被害を与えやすい頻度で喫煙を繰り返していれば不法行為を構成する」と判示。今回はそれに該当しないとして原告の請求を退けた。
原告は控訴したが、大阪高裁は今年2月、控訴を棄却。原告はこの判決も不服として上告した。最終判断は最高裁に委ねられたが、過去にはベランダ喫煙が違法と認定されたこともある。
「迷惑行為をやめろ」…ベランダ喫煙で訴訟に発展 煙たがられる「ホタル族」のリスク – 産経ニュース
要は、不法行為と見なされる程度ではないということ。また、1度抗議した後は「頻繁に喫煙していないとされたようですね。
最高裁の判決については、まだニュースとしては目にしていません。
このニュースの思う所
このニュースを読んで、私個人が感じ、心を痛めたことを言語化します。
原告が感じていた迷惑
1日20本弱との記載がありました。ここでは18本としましょう。24時間から睡眠を8時間分引いたら16時間。70代の被告が無職などで在宅とした場合、16時間で18本吸われる計算です。
おおよそ1時間ごとに、ベランダに出てタバコを吸っていたとなれば、めちゃくちゃ迷惑ではないでしょうか。
我が家の冬の薪ストーブの煙よりも迷惑では……
昭和であればこれくらいの受動喫煙はあったかもしれませんが、この令和時代でなおかつ自宅ではあり得ません。
心と体を休めるはずの自宅で、常にいつ煙がやってくるか分からない状態。原告は本当に辛かったと思います。
我慢の期間も長い
4年の段階で原告は抗議しています。逆に4年ひたすら何も言わなかったのかまでは分かりません。いずれにしても言えるのは、被害が大きい中で4年も我慢されたのか、という思いでした。
しかもその後の抗議で「なぜベランダで喫煙してはいけないのか」と返された2年間は、気が狂う程の感情だったと思うのです。
薪ストーブと違うのは、1年中365日、被害に遭う可能性があるということです。これを計6年というのは、相当な期間の我慢です。
相手に対し想像もつかないほどの恨みと憎しみを感じていたでしょうし、精神的ストレスもたまっていたことでしょう。
そんな状況が身体に良いはずもありません。
原告の本気度
PM2.5測定器を3台も設置したということは、原告の本気度が伝わってくる気がします。そこまでの状況であった証とも言えそうです。
憶測の域を出ませんが、こういうことではないでしょうか。
- とにかく被害状況を認識したかった
- 複数台設置で精度の高い測定しようとしていた
- 裁判も見据えていた(最初からではないと思いますが)
私も煙で悩む立場なので、とてもよく気持ちが分かります。
1台だけであれば、機器の信憑性に不安があるでしょう。3台ともに近い数値を出していれば、より精度の高い測定が可能です。
記録・データの信憑性について
判決では「測定値について信用性を否定」されてしまっています。しかも1度の抗議以降は、頻繁な喫煙は認められないとのこと。
どのように測定し、記録していたのかはわかりません。ですが、客観的に認めてもらうためには、この記録が重要だなと改めて感じました。
例えば次のような要素が頭に浮かびます。
- 機器の信憑性
- 測定の信憑性
- 改ざん不可能な媒体に記録
- 一定の頻度での測定
- 長期間の測定
手作業では、相当な手間がかかりそうです。自動測定&記録できるような機器でないと、難しいなと思いました。
環境基準を超えることは難しい
測定&記録だけでもハードルがありますが、不法行為と判断してもらうためには、数値の問題もあります。
数値は、国が定める環境基準というものが指標になることが多いです。詳しくは以下記事をご覧ください。
要約すると、PM2.5の環境基準は以下です。
1年平均値が15μg/m3以下であり、かつ、1日平均値が35μg/m3以下であること。(H21.9.9告示)
「PM2.5が環境基準を上回ることが頻繁にあった」とのことですが、おそらく年平均ではなく、以下のいずれかの意味と考えられます。
- 1日平均値が35μg/m3を頻繁に上回った
- 一時的に35μg/m3を頻繁に上回った
厳密に言えば1の意味が環境基準と思いますが、広義で2の意味として言っている可能性もあります。
というのも、ベランダ(普通に考えると外)での計測とのこと。その場合タバコは5分で吸い終わったとして、せいぜい10分ほどで拡散してしまうと推測されるからです。
薪ストーブもそうですが、一時的に100μg/m3を超えるほどのことがあったとしても、1日平均すれば35μg/m3を下回ることがほとんどです。
よってタバコも薪ストーブも、どんなに酷くて体感的に苦しくても、環境基準を超えるのは難しいのではないか。
だとすると法律で解決するのは難しい問題なのだなと改めて思いました。
訴訟に勝っても負けてもわだかまりが残る
訴訟で勝っても負けても、お互いにわだかまりがゼロになることはないと思います。
本訴訟では集合住宅のようなので会うことは少ないとは思いますが、戸建ての場合はしょっちゅう顔を合せます。
わだかまりのある人と、壁や道を隔てて近くに住み続けるというのは、良い住環境とは言えないと思います。そういった観点からも、裁判での解決が難しい要因になりそうです。
ヤフコメ
Yahooコメントを見ていて、タバコも薪ストーブも同じだなと思うところが多くありました。その中から特に特に「わかる!」という点をまとめてみました。
PM2.5の濃度が高くなる
ベランダ喫煙については、隣室のベランダあるいは上階のベランダにタバコ煙が広がった後、窓などからそれぞれの室内に入り、燃焼によって生じる微小粒子状物質であるPM2.5の濃度が高くなるという産業医科大学などの研究があります(J UOEH.2020;42:335-8.)。
Yahooコメント 呼吸器内科医 倉原優 さん
薪ストーブの煙で日頃から体感しているので、煙を含んだ外気が室内に入るのは明白です。PM2.5も爆上がりするのも知っています。
なので「まあそうでしょうね」とは思いますが、「研究結果」としてあるということに意味があると思います。
特に比較的新しい建物は気密性が高く、24時間換気がきいているので給気口からの外気流入が多いです。対して古い建物は気密性が低いがゆえに、窓などの隙間から外気が入り込みます。
少なくとも煙が身体に良い事はなく、他人から迷惑を被っているわけです。
いつ臭ってくるかわからない
吸うお宅は自分の吸うタイミングで窓など閉めると思いますが、上の階の人は事前予告なく急に臭いが入ってくるので換気も安心してできないし生活に支障が出ます。時間も決まっているわけではないだろうし。下の人の都合で戸や窓が毎日開けられなくなるのは苦痛だと思います。
Yahooコメント sti*******さん
いつ臭いがやってくるか分からないのは、とても怖いことです。
煙は暴力と大差ありません。例えるなら、いつ殴られるかびくびくしながら暮らすようなものだからです。
このコメントはまさしく私の感覚と同じです。
自分は煙がイヤ
「部屋を汚したくない」という認識があるということは、喫煙行為が何かしらの弊害(屋内汚染、受動喫煙、その他健康被害など)の発生の認識があるということだと思います。
このような認識がある上で、ベランダ(屋外)での喫煙は責任逃れ(個人の環境での被害回避)としか思えません。なぜご自身がベランダでの喫煙となっているのか?という点を、今一度考え直して欲しいものです。
Yahooコメント sim*****さん
タバコをベランダで吸ったり、薪ストーブに煙突を付けるのは、煙を室内に出したくないからです。
自分が嫌で不利益があるものを他人に押しつけ、自分は快(タバコが美味しい・薪ストーブで暖かい)と感じているわけです。にもかかわらず、苦しむ側が改善をお願いしても誠意ある対応をしない。
文字にすれば人としてありえないようなことが、現実には横行しています。上記コメントであるように、今一度考えていただければと思うのですが……。
洗濯物を取り込む/密閉空間でやってほしい
バルコニーで洗濯物を干している時は臭いが付着しないよう、一旦取り込みます。 何故喫煙しない方がこんな面倒な事をしないといけないのか、憤る事もしばしばあります。 他の方も言われているよう、臭いや煙を出さず密閉空間で喫煙して欲しいものです。 自宅内で喫煙出来ないのは、ご家族の方にも疎まれている証拠なのでは️ 家族や他人に迷惑かけてまで喫煙する意味が理解出来ません。
Yahooコメント nik*******さん
我が家の近所で日中に薪ストーブを使う家がありますが、私も臭ってきたら洗濯物を取り込みます。本当に「なぜ自分たちが!?」と常々思っています。
タバコもそうですが、個人の趣味として完結していれば誰も文句を言いません。タバコなら密閉空間、薪ストーブなら個人宅の中で完結してもらえればと思ってしまいます。
もちろん、薪ストーブはCO2などもでるので現実的に無理なことは分かっています。ですから、せめて排煙浄化装置の設置を検討いただくなどの配慮が有効になるでしょう。
本人は臭いを感じない
学生時代に友人数人と旅行した時に旅館の部屋に入った瞬間にタバコ臭くて仕方無かったが、喫煙者の友人はそのニオイを感じないと言っていて衝撃を受けた思い出がある
Yahooコメント 借り暮らし さん
喫煙者が言う「これぐらいで目くじら立てるな」と言う気持ちは非喫煙者には分からないし
非喫煙者が言う「煙が臭くてたまらない」と言う気持ちは喫煙者にはきっと分からない
私は非喫煙者なのでタバコの煙は日常生活の中に無い異物として認識してしまう
喫煙経験が全く無いのですれ違っただけの人が喫煙者だと分かる事もあるし基本的に喫煙者は体臭で分かってしまう
これもめっちゃわかります。私も喫煙者だったころは全く分からなかったのが、喫煙者と接すると大抵わかります。タバコを吸っていた自分ってこんなに臭かったんだ……と。
おそらくは薪ストーブ利用者さんも、室内で多かれ少なかれ煙を感じているはずです。それが慣れてしまっているのか、もしくは良い匂いとして生活に溶け込んでいるのか、わからなくなっている可能性があります。
このことも、問題解決の難しさに拍車をかけているように感じます。
タバコ問題も、薪ストーブ問題も本当に難しいですね……
まとめ
タバコも薪ストーブも、自分の趣味嗜好で行うものです。
共に煙が出ます。自分にはメリットがあれど他人にはありません。法律で認められています。下手な言い方をすると逆ギレされることもあります。相手が拒否すれば、自分は我慢するしかありません。
全てにおいてそっくりですね。
タバコは公共施設での屋内禁煙となりましたが、個人宅での規制は難しいかもしれません。薪ストーブの規制はまだありませんが、ゆくゆくは個人宅での排煙規制ができることでしょう。
とにかく現時点では、超絶辛い被害に遭われている方でさえ訴訟で解決するのは難しいのが現状です。法律の改正・各種規制が望まれます。
だれもが望まない煙を吸わない世の中になってほしいです。
公共施設の受動喫煙は厳しいのに、個人宅からの被害には甘い。同様に、企業の排煙は厳しいのに、個人宅が煙を出し放題OKなのも合理性がありません。
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