秋・冬になると近所の薪ストーブが臭う。
薪割りの音がうるさい。
昨今では住宅街の薪ストーブ設置が増え、このような悩みを持つ方も増えてきているようです。
無責任に販売する一部の業者や、法整備をなおざりにしたままカーボンニュートラルを推し進める国には憤りを感じますね。
さて、本ページの読者対象はそんな薪ストーブ被害者の方ですが……
ところで、あなたの家の薪ストーブ被害はどの程度でしょうか?
……とこう聞かれた際、説明しようにも主観・抽象的になってしまう方も多いと思います。
もちろん、主観等も本人にとって大事です。しかし他人に程度を説明する際には「臭い」「うるさい」「迷惑」だけではなかなか分かってもらえません。
人に分かりやすく説明したり、自分で状況を詳しく把握したりするのに必要なこと。それは客観性です。客観性を知るためには、数値化し、基準と比較することが重要となります。
実は薪ストーブ関連の被害も、一部の項目においては数値化・比較を行うことが可能です。
- 環境基準という国の数値基準がある。
- 薪ストーブの被害を数値化し、基準と比較できる。
本ページではこれら2点を基に、薪ストーブの被害状況を客観的に知ることについて考えてみたいと思います。
これは誰もが行う必要はありません。しかしながら、現状をより詳しく把握し問題解決に活かしたい方は、知っておいて損はないことと考えます。
環境基準とは!?
冒頭で触れたとおり、日本には「環境基準」という、国が設定・公開している基準があります。この基準を元に、ご自身の薪ストーブ被害がどのような状況かを確認することができるのです。
具体的な数値はさておき、まずはこの環境基準の概要についてご説明します。
積極的に維持されることが望ましい基準
まずは環境省が公開している、環境基準についての文言をそのまま引用したいと思います。
人の健康の保護及び生活環境の保全のうえで維持されることが望ましい基準として、終局的に、大気、水、土壌、騒音をどの程度に保つことを目標に施策を実施していくのかという目標を定めたものが環境基準である。
引用元:環境省_環境基準
1文が長くて読みにくいですね(汗)。要は「人が生きていくために望ましい基準を設けるよ」ということです。
注意したいのは、「人の健康を維持するための最低限度」ではなく「積極的に維持されることが望ましい基準」であるということ。努力目標と必達目標の間にあるようなイメージでしょうか。
環境基準は以下の5つの項目に分けられ、それぞれさらに細分化されて基準値が定義されています。
- 大気の汚染
- 水質の汚濁
- 土壌の汚染
- 騒音
- ダイオキシン類
【参考】規制基準との違い
似たような基準として「規制基準」というものがありますので、参考までに補足しておきます。
規制基準は、個別の法律により規制される最低限の基準のことです。個別の法律とは、例えば大気汚染防止法や悪臭防止法などのこと。
「望ましい基準」である環境基準とは異なり、規制基準は必ず守らなければならない決まり事です。違反すると罰則の適用があったり、強制力があったりなどの違いがあります。
罰則は無いけれど指標にはなる
規制基準には罰則があることは書きましたが、環境基準にはそれがありません。ではなんの意味もないのか……と言えば、調べたところそうでもないようです。
例えば役所(自治体)では、状況が酷い場合には各種数値を調査してくれる“こともある”ようです。例えば基準を常に超えているデータを提示できれば、役所も相談に応じやすくなることでしょう。
“こともある”としたのは理由があります。残念ながら役所・担当者によって対応には温度差があり、全く動いてくれない役立たずなケースもあるようです。
裁判時に使われることも
裁判時にも環境基準は指標として参考にされています。以下は判例ですが、「環境基準」の数値をそのまま使われているのが興味深いところです。
1)鑑定の結果、園児が園庭で遊んでいる時間帯では騒音の大きさは環境基準の基準値を超えているが、環境基準は時間の区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルで評価することを原則とするから、昼間の時間区分(午前6時~午後10時)全体の等価騒音レベルに引き直すと、基準値を上回らない。
引用元:騒音の判例・裁判例 | 騒音・低周波音・振動・悪臭の法律相談なら全国対応の「むらかみ法律事務所」
つまり環境基準はは、ただの努力目標に毛が生えたようなものではないということ。有事の際に意味をなす数値であると言えるでしょう。
薪ストーブと環境基準について
環境基準の概要がわかったところで、具体的に薪ストーブ問題と結びつけて考えてみたいと思います。
薪ストーブに関係があると考えられる項目
先に挙げた環境基準の項目中、薪ストーブに関連するのは以下です。
- 薪作りのチェーンソーなどによる「騒音」
- 煙による「大気の汚染」
このうち、1の「騒音」に関しては、音の大小ということになりますので分かりやすいですね。
より複雑なのは「大気の汚染」の方です。薪ストーブによる大気汚染には、環境基準の以下の項目あたりが関係してくる可能性があると考えられます。
- 二酸化いおう(SO2)
- 一酸化炭素(CO)
- 浮遊粒子状物質(SPM)
- 微小粒子状物質(PM2.5)
- 二酸化窒素(NO2)
- 光化学オキシダント(OX)
- ダイオキシン類
あくまで可能性の話として挙げましたが、これらはゴミや化学物質を含む物を燃やしていたりなどのケースも含めた場合のお話。正しく使えていればほぼ発生しない・関与しないものもあります。
どの項目でも基準と比較することは可能ですが、必ず発生する&測定しやすいものを対象項目にすると良いかもしれませんね。
測定は基本的に自分で行う
基本的には、自分で専用の測定器(後述)を購入し、数値を測定するのが最も手軽です。価格は数千円~1万前後のものが購入しやすいでしょう。
当然、高いものほど信頼できる可能性が上がると考えられます。……が、まずはほどほどに安価な物でよいのではないでしょうか。
ちなみにプロに依頼することもできるのですが、以下の問題もあるのが悩みどころです。
- 1度だけの測定では信憑性に不安がある&継続性を証明できない
- 来てもらった時に迷惑行為があるとは限らない
- 何度も測定に来てもらえば大金がかかる
現実的には自分で測定しつつ、もしも必要が生じた際は補助的にプロに依頼することも検討……という感じになるでしょうか。
数値についての考え方
測定した数値と、後述する環境基準の値とを比較します。一時的でも超えていれば、少なくともその瞬間は望ましい状況ではない可能性があるということが分かります。
常識か非常識か!?
迷惑か当たり前のことか!?
我慢すべきか改善を求めるべきか!?
……等など、臭いや音は判断の基準が難しいですが、数値化することで判断しやすくなります。
また、最初にも書いたとおり、誰かに説明する際にも効果はあります。信頼性の高いデータであればあるほど、客観的に被害を証明しやすくなりますし、訴えの信憑性も向上します。
ただし数値の信頼性は、機器や計測方法、記録方法によっても変わることはご留意ください。
薪ストーブ×大気汚染に関する環境基準値
それでは具体的な環境基準について見ていきましょう。まずは薪ストーブによる被害のメインである、大気汚染に関する環境基準の項目から見ていきたいと思います。
大気汚染に係る環境基準
素人でも計測可能と思われる項目および数値をまとめてみました。
物質 | 環境上の条件(設定年月日等) | 測定方法 |
---|---|---|
二酸化いおう (SO2) |
1時間値の1日平均値が0.04ppm以下であり、かつ、1時間値が0.1ppm以下であること。(48.5.16告示) | 溶液導電率法又は紫外線蛍光法 |
一酸化炭素 (CO) |
1時間値の1日平均値が10ppm 以下であり、かつ、1時間値の8時間平均値が20ppm 以下であること。(48.5.8告示) | 非分散型赤外分析計を用いる方法 |
浮遊粒子状物質 (SPM) |
1時間値の1日平均値が0.10mg/m3以下であり、かつ、1時間値が0.20mg/m3以下であること。(48. 5.8告示) | 濾過捕集による重量濃度測定方法又はこの方法によって測定された重量濃度と直線的な関係を有する量が得られる光散乱法、圧電天びん法若しくはベータ線吸収法 |
微小粒子状物質 (PM2.5) |
1年平均値が15μg/m3以下であり、かつ、1日平均値が35μg/m3以下であること。(H21.9.9告示) | 微小粒子状物質による大気の汚染の状況を的確に把握することができると認められる場所において、濾過捕集による質量濃度測定方法又はこの方法によって測定された質量濃度と等価な値が得られると認められる自動測定機による方法 |
二酸化窒素 (NO2) |
1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること。(53. 7.11告示) | ザルツマン試薬を用いる吸光光度法又はオゾンを用いる化学発光法 |
より詳しくは、環境省_大気汚染に係る環境基準のページをご参照ください。
素人でも計測可能……と言っても、手間や測定器の購入しやすさ、価格など、項目毎にハードルが異なります。
基準と比べたいといっても、面倒だったり大金がかかるのは嫌ですよね。
特に業務用の測定器はべらぼうにお高いのもありますので。
私も色々と測定も調べてみましたが、気軽に測定するなら微小粒子状物(以後PM2.5)が無難かなと思いました。
というのも昨今では特に注目されている項目であり、世間でも測定器は数多く出回っている。ひいては価格がこなれていて買いやすいことにも繋がるからです。
PM2.5の環境基準
というわけで、環境基準からPM2.5に関する説明だけを抽出してみました。
1年平均値が15μg/m3以下であり、かつ、1日平均値が35μg/m3以下であること。(H21.9.9告示)
ご覧の様に、厳密な基準では最短のスパンでも1日平均にならされてしまう問題はあります(ちなみにSPMなら1時間値なのですが)。
とは言え先ほどのとおり、測定器の兼ね合いで最もお手軽に計測できることは間違いありません。最初の第一歩として、PM2.5はお勧めできるように思います。
PM2.5の測定方法
とりあえず数値を測りたいだけなら不要ですが、一応測定方法も触れておきたいと思います。
微小粒子状物質による大気の汚染の状況を的確に把握することができると認められる場所において、濾過捕集による質量濃度測定方法又はこの方法によって測定された質量濃度と等価な値が得られると認められる自動測定機による方法
場所に関してはかなり抽象的ですね(汗)。
測定方法に関してはこの方法に準じることができればベストなのかもしれません。
ですが裁判用など厳密に測定する用途でなければ、必ずしも厳守する必要はないと思います。
そもそもですが、安価な測定器には測定方式など詳しく明記されていないかもしれません。私が購入したPM2.5測定器も、特に詳しいことは書かれていませんでした。
私は室外に出る前の参考程度に、給気口付近でラフに測ってます。測定結果はすぐ出ますので便利です。
薪ストーブ×騒音に関する環境基準値
次に、薪割り・チェーンソーなどで発生する騒音に関しての環境基準を見ていきたいと思います。
騒音はデシベル(dB)で測定
大気汚染の環境基準と比較して、騒音は音に集中すれば良いので分かりやすいですね。
ご存じの方も多いと思いますが、音の大きさはデシベル(dB)という単位で表現できます。デシベルが大きい=音が大きい。デシベルが小さい=音が小さいとお考えください。
騒音の環境基準
地域の類型 | 基準値 | |
昼間(6:00~22:00) | 夜間(22:00~6:00) | |
(AA)療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域 | 50dB以下 | 40dB以下 |
(A)専ら住居の用に供される地域 | 55dB以下 | 45dB以下 |
(B)主として住居の用に供される地域 | 55dB以下 | 45dB以下 |
(C)相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域 | 60dB以下 | 50dB以下 |
Aで2車線以上の車線を有する道路に面する地域 | 60dB以下 | 55dB以下 |
Bで2車線以上の車線を有する道路に面する地域 | 65dB以下 | 60dB以下 |
※上記は、表がややこしいので丸々引用せずに私なりに加工しました。大元の情報をご覧になりたい方は環境省のサイトをご覧ください。
お住まいの地域によってA~C等多少変わりますが、役所に確認すれば教えてくれるはずです。
改めて、ご自身の環境がどれにあてはまるかご覧になってみてください。ちなみに私の場合は「(A)専ら住居の用に供される地域」と推測されるので基準値は55dBだと考えられます。
時間帯の区分
PM2.5が1日平均であったように、騒音でも区分という概念があります。
- 昼間を午前6時から午後10時までの間とする
- 夜間を午後10時から翌日の午前6時までの間とする
これらの時間帯の区分ごとに等価騒音レベル(要は平均)で評価することになるので、超えづらいようになっているようです。
こちらもPM2.5と同様に、とりあえず数値を計測したいだけであればそこまで考えなくてもよいと思います。
計測方法
こちらも数値を測りたいだけであれば、自由に測って良いと思います。
厳密に環境基準に沿って測る場合、PM2.5等と比べて条件が細かいので、環境省のサイトをご一読されることをお勧めします。
私も読みましたが、おおよそしか理解できていません。
測定器について
最後に測定器について見ていきたいと思います。大事な点は、目的により必要な計測器は変わってくるということです。
例えば大別すると、以下のようになるでしょうか。
- 証明用
- プロ用の機器
- その他信頼性が担保できる機器
- 個人の参考として
- なんでもあり
例えば、客観性の高いきちんとした数値を計測し、データとして残したいのであれば1.1、つまりプロ用の定評のある製品を購入すれば反論の余地を減らせると考えられます(そこまでする必要があるかは別として)。
プロ用の機器でなくとも、1.2のように、それと同等の数値を示す事実が証明できれば証明に使えると考えられます。
本ページの趣旨である2なら、ご自身の予算内で好きなものを買えば良いと思います。ノーブランド品から高いものもありますが、必ずしも値段だけで言えるものではないようですので。
ここでは、私が数時間かけて調べ、良さそうだなと思ったものをご紹介します。
なぜなら、この機会に自分も購入してみようと思ったからです。なので自分が買う候補として選定しました。
個人で買いづらい金額のものだと意味がありません。ここではAmazon.co.jpで買えるような、手軽な測定器をご紹介します。
PM2.5測定器
日本企業の製品はそれほど多くありません。PM2.5だけでなく、PM10やPM1.0等も同時計測できるものも多いです。
Dienmern 空気汚染測定器
執筆時価格:8,980円
Amazon評価:★3.5 (26個の評価)
執筆時サクラ度:0%
中国の出品者の測定器です。このジャンルはあまり口コミが多くない中、26個の評価が投稿されており、サクラ度も0なのでそこそこ実績があります。
ホルムアルデヒド、PM2.5、総揮発性有機化合物の3つしか測定できませんが、最も安いです。
Amyes 空気汚染測定器
価格:9,999円
Amazon評価:★3.5 (13個の評価)
サクラ度:評価不足で分析不可
こちらも中国の出品者の測定器です。こちらは13個の評価と少ないですが、これでもこのジャンルでは多い方です。
ただしサクラ度は分析できませんでしたので、あくまで参考程度にとどめるのが良いかもしれません。
ホルムアルデヒド、PM2.5、総揮発性有機化合物の他、PM10とPM1.0にも対応しています。
サンワサプライ PM2.5測定器 CHE-PM25
執筆時価格:13,405円
Amazon評価:★5 (1個の評価)
執筆時サクラ度:評価不足で分析不可
数少ない、国内企業(PC周辺機器の会社)の製品です。口コミは無いのですが、サンワサプライの製品なので、最低限の質と日本語サポートは期待できる可能性があります。
計測できる数値は1つ前の測定器と同じですので個人なら充分な性能です。
これまでのものと比べると少しお高めですが、国内企業の製品ということにメリットがあるかもしれません。
ちなみに私はこれを買いました。詳しくは以下のページで触れていますので気になる方はご参照ください。Amazonよりも安く買える店なども書いています。
騒音測定器
PM2.5と異なり、こちらは日本企業が販売する安価な製品も結構あります。
サンコー 小型デジタル騒音計 RAMA11O08
執筆時価格:2,100円
Amazon評価:★4 (463個の評価)
執筆時サクラ度:10%
サンコーという日本の会社の騒音計です。知らない会社だったので調べてみましたが、社長が山光さんだからっぽいです(笑)。→公式サイト
安いのに463個の評価で★4と、評価が非常に高いです(執筆時)。Amazonレビューのサクラ度も10%だったのでヤラセの可能性は少ないでしょう。
お値段的に割りきった製品……と思いきや必ずしもそうでなく、裁判の記録用として使っている方もいるようですね。
ただ、電池が特殊(四角いやつ)なようなので、その点だけは注意が必要です。
サンワサプライ デジタル騒音計(騒音・温度 計測可能) 小型 CHE-SD1
執筆時価格:3,645円
Amazon評価:★4 (84個の評価)
執筆時サクラ度:0%
国内の大手PC周辺機器の会社:サンワサプライの騒音計です。個人的にこの会社は最低限の信頼度があると思っているので、候補に挙げました。
執筆時点でのレビューも84件&平均4と、まずまずです。
値段もそこまでお高くないので、失敗しても許容できる金額だと思います。
シンワ測定(Shinwa Sokutei) デジタル騒音計 78588
執筆時価格:9,278円
Amazon評価:★4 (34個の評価)
執筆時サクラ度:評価不足で分析不可
こちらも国内企業のシンワ測定の騒音計です。
シンワ測定はその名の通り測定の専門会社。つまりは比較的信頼できる製品と考えられます(測定の会社がだめな製品を出したら営業していけませんので)。
しかも会社は金属加工などで有名な新潟県三条市です。
私も本件とは関係ありませんが、シンワ測定の製品にはお世話になっており、不具合の経験はありません。総じて口コミ評価も良い印象です。
多少高くても品質が良い物を……と思われる方にはお勧めできます。
まとめ
以上、環境基準についてまとめました。
繰り返しになりますが、測定&環境基準と比較することで、より客観的な被害状況を知ることができます。
もちろん測定するだけでは何も変わりませんが、現状を知ることでその後の対応に活かすことも可能でしょう。
本記事が、現状から何か一歩でも前進するきっかけになれば幸いです。
ただ、測定器を相手に突き出し、「こんな数値になってるんですよ!」なんてやると神経質認定されかねないので扱いにはご注意ください。
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