住宅街における薪ストーブの迷惑のメインとなるのは、煙に起因するものです。これには誰も疑う余地はないと思います。
そして次にくるのが、薪割り・薪作りではないでしょうか。斧やチェーンソー使用により、多かれ少なかれ「音」が発生します。特に住宅街では物理的距離が近いため、必然的に迷惑に感じる人は多くなることでしょう。
しかしながら音に関する迷惑は(も)、被害者の立場になって考えるのが非常に難しいものです。
薪割りがうるさいので音を控えていただけますか
はあ、すみません。
具体的にどうすればいいんだろう?
……等など。エンジン式チェーンソーなど分かりやすい騒音ならともかく、そうでないならどうしたら良いか困ってしまうこともあるかもしれません。
というわけで本ページでは、薪割・薪作りがなぜ迷惑になるのかを、被害者の体験をベースに解説していきます。
今回の読者対象は、住宅街で薪ストーブを利用&薪割り・薪作りをされている方です。「薪割りでクレームが来た」「薪割りは何も考えずにしてるけど迷惑なの!?」等という方に、新たな気づきがあれば幸いです。
騒音に関する前提
騒音は感覚だけでもうるさいか判断できますが、必要に応じて客観的な観点で考えることも重要です。音を客観的に表現する方法として、音の強さを表す単位:デシベル(dB)が用いられています。
本ページをご覧頂く際の前提として、「環境基準」のデシベルについて触れておきます。
環境基準のデシベル
環境省が定義する、環境基本法における「環境基準」という指標があります。
この指標は、分かりやすくいえば「維持されることが望ましい数値」のこと。以下の通り定められています。
地域の類型 | 基準値 | |
昼間(6:00~22:00) | 夜間(22:00~6:00) | |
(AA)療養施設、社会福祉施設等が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域 | 50dB以下 | 40dB以下 |
(A)専ら住居の用に供される地域 | 55dB以下 | 45dB以下 |
(B)主として住居の用に供される地域 | 55dB以下 | 45dB以下 |
(C)相当数の住居と併せて商業、工業等の用に供される地域 | 60dB以下 | 50dB以下 |
Aで2車線以上の車線を有する道路に面する地域 | 60dB以下 | 55dB以下 |
Bで2車線以上の車線を有する道路に面する地域 | 65dB以下 | 60dB以下 |
目安として昼間55dB前後を超えるものに関しては、生活エリアにおいて騒音となりえるラインであることがわかりますね。
この数値(dB)のみで迷惑が定義されるわけではありませんが、論理的思考において参考になる目安と言えるでしょう。
こちらを頭の片隅に置いた上で本ページをご覧いただければと思います。
チェーンソー・丸ノコの騒音
私がそうでしたが、チェーンソーや丸ノコと言えば「業者さんが使うもの」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし薪ストーブユーザーさんにとってはごく一般的なアイテムのようです。
燃料である薪作りには、玉切りと呼ばれる幹を短い丸太にする作業があります。また、割られた薪や木を適宜切って使いやすくすることもあります。
こういった作業で使用するのが、チェーンソーや丸ノコです。まずはこれらの騒音問題から見ていきたいと思います。
エンジン式は住宅街ではNG
まず、チェーンソーには、大きく分けると以下の2つがあります。
- エンジン式
- 電動式(充電式含む)
エンジン式については、住宅街ではどう考えてもNGだと考えられます。カタログスペックではほとんどが90dB超え。中には100dBに達するものもめずらしくないからです。
私も経験がありますが、エンジン式は100Mくらい離れていても余裕で爆音を感じる業者向けアイテムです。敷地が数千坪あればまだわかりませんが、一般的な住宅密集地では難しいでしょう。
よほど離れないと環境基準のdBも軽く超えますので、各種通報されてもおかしくないと考えられます。
電動式なら迷惑でないかは別!
チェーンソーや丸ノコには電動式のものがあり、エンジン式よりも騒音がやや小さいと言われます。
こちらも調べたところ、カタログスペックにdB値が載っていることがなぜか少ない!?大手のマキタ、RYOBI、HiKOKIなどではカタログにも載っていませんでした。
マイナーな会社には記載があっても80dBオーバーのものばかりで、音の小さい製品は見つかりませんでした。
体感になってしまいますが、実際周りで電動チェーンソー・丸ノコを使っています。そして、実は私も1つ小型の電動チェーンソーを持っていますが、やはり音は比較的小さいように思います。
であれば電動式ならいいかと言えば、決して静かではありません。製品にもよるとは思いますが、“シャー”という高周波な音で、普通にうるさいです。
住宅街なら、電動式で低dBな製品がマスト
先ほどのとおり電動式でもうるさいので、住宅密集地なら使わないにこしたことはありません。
もしどうしても使う場合は、最低限以下に配慮するのがよいと思います。
- 電動式を選ぶこと
- 低dBが明記された製品にすること
- その他変数(本ページ後述)に配慮すること
先に挙げた通り、住宅街では55dB前後を超えるか否かが環境基準の目安です。すでにお使いの方は、型番で検索して調べてみると良いでしょう。
dBが明記されていない場合は、メーカーに問い合わせをすれば教えてもらえるかもしれません。
ただし基準値と迷惑・クレームは別の話です。数値を下回っていれば万事OKではないことにご注意ください。
薪割りの地響き&音
斧による薪割りのインパクト時には強い力が加わることもあり、大きな音や、地響き(地面が揺れる)が発生することがあります。
実際に体験しなければ分かりづらいことですので、詳しく書きたいと思います。
音が少ないケース
まずは、薪割りの音が少ない例を見つけたので先にご紹介したいと思います。
以下は薪ストーブ屋さんの動画ですが、割るときには「パン」「ポン」という音が確認できます。
軽々と割っているように見え、音もそこまで大きくありません(私の環境比)。素人目ですが、お上手なのだろうなぁと思います。
無駄な力が入っていないのと、周りが土なので飛び散った薪も音がしづらいのかと思います。これくらいであれば、住宅密集地は別としても、敷地が広ければクレームになりづらいかもしれません。
背景には山も見えますし、こういったところでの薪ストーブは相性が良いですね。
薪割の音は時にものすごい地響き&騒音となることも
我が家のすぐ近くには、薪割りをする人が2名います。しかし発生する音は、先ほどの動画とは比べものになりません。
力任せにたたきつけるので、インパクトの瞬間に「ドゴン!」「ドガン!」という音と、地響き(衝撃波のようなものも?)がします。
地響きって……(笑)、話盛ってませんか!?
いやいや盛ってませんよ。我が家の場合は、電動式チェーンソーよりもこちらの方が断然迷惑です。
私なりに考えてみたのですが、我が家のケースでは、以下の様な変数が影響しているのだと推測しました。
- 距離的に近い場所で割っている
- 力任せに割っている
- 下敷き・地面の違い(コンクリの上)
1は誰でも分かることですのでさておき、2と3について補足したいと思います。
力任せに割ると強い衝撃が生じる
先ほどの動画では、斧の重さや遠心力がメインで割られていました。しかしそれに腕力も加わると、非常に強い衝撃が発生するのは明白です。
しかも1度で割れずに、何度もドガン、ドガンと、たたきつけていることもしょっちゅう……(涙)。
おそらくはそもそもが固い木なのでしょう。固い木を無理に割ろうとすれば、力が入ってしまうのも無理はありません。
住宅街では、軽い力で割れるような薪でないと、かなりうるさくなるので注意が必要です。
コンクリの上で割るのはめっちゃ響く
敷地面積が狭い場合、コンクリートで外構をしたら地面(土)がほとんど無いこともめずらしくありません。特に東京23区等の区分けが小さい住宅街などでは、土があるのは花壇くらいというのはよく見かけます。
我が家の近所もまさにこれ。そのためコンクリートの上に丸太を置いてその上で割っているのですが、これがとにかくよく響くこと。
調べてみると、コンクリートの振動の伝搬速度は、空気よりも10倍~15倍程度速いようです。
コンクリートやガラスを伝搬する振動のスピードは空気中を音が伝わる早さの10倍以上
引用元:万協フロアー|床良しセミナー|第4回
コンクリートづたいに繋がっている我が家に、空気より早く振動が伝わっていたというわけです(厳密に言えば家の木材も介しますが)。
振動=音ですから、地響きに感じたり、衝撃音としても伝わってきやすいのだと考えられます。
もちろん土の地面でも地響きになる可能性はありますので、いずれにしても注意が必要だとは思いますが。
固いコンクリの上で、固い木に、力任せで打ち付ければ響くのも当然かもしれません。周囲にコンクリートしかない住宅街では薪はどうか買ってください。お願いします。。
おまけ:薪の音
薪が当たる音も、近いと地味にうるさいです。
例えば割れた直後に、コンクリートの上に勢いよく薪が飛び散る音。薪を積む音。薪を投げる音。
単体で見れば大してうるさくはないものかもしれません。しかし普通の住宅街で聞き慣れない音は耳に残りやすいものです。近くで延々と繰り返されれば迷惑になり得ます。
音・地響き共通の迷惑になる変数
音・地響き共通で言えることですが、直接的な音・振動だけで迷惑に感じるわけではありません。相手が迷惑に感じるには様々な変数があります。
私が頭をひねって考え出した、迷惑になりえる変数は以下の5つです。
- 情報開示の有無
- 距離
- 時間帯
- 最大音量
- 継続時間
これらが総合的に組み合わさることにより、迷惑かそうでないかが決まると考えます。
それぞれ見ていきましょう。
情報開示の有無
短時間作業では大げさですが、長時間作業の場合、これのある・なしで大きく心証は変わってきます。
今日の10時から15時までの間、チェーンソーで作業します。ご迷惑お掛けしますがよろしくお願いします。
このように事前に声を掛けてもらえれば「今日は買い物に出かけようかしら」と行動を変えることもできます。そうでないにしても、終わり時間が分かっているのは気持ち的に大違いです。
延々と終わりが見えない作業は、イライラ・迷惑を増長させるからです。
距離
極論を言えば、東京23区のような激狭住宅街で密接しているような場所であれば、どうやっても迷惑は避けられないと思います。
敷地のどこで割っても、隣家と近いわけですから。
境界50cmぎりぎりの住宅街では、へたしたら1mくらいのところに隣地の窓があったりしますしね。
そもそもこのような場所では薪割りだけでなく、薪ストーブを使うこと自体トラブルになってくると思いますが。。
そこまで極端でなくても、敷地が100坪未満なら薪割り・薪作りでトラブルになる可能性はどこでも普通にあると思います。
100坪・200坪・300坪~と、敷地が広くなればなるほど迷惑の可能性は減りますが、それでもエンジン式のチェーンソーは住宅街向きではありません。
時間帯
環境基準では朝の6時~22時までが55dB前後と定義されています。……が、実際には「常識」という、暗黙の基準がまた別にあるのは言わずもがなでしょう。
常識は人により異なるので、大きな音を発して良いと考える時間帯も人それぞれです。例えば朝8時にはバリバリ活動している人もいれば、朝10時近くまで寝ている人もいます(特に休日など)。
より多くの人が問題無いと思いやすい時間帯として、昼間の時間帯が無難かもしれません。
ただ、各ご家庭の事情もあります。夜勤の方もいれば、現在は新型コロナウィルスの影響で、オンライン会議も増えています。日常でYoutube動画を撮影する人もいます。
個別の事情に配慮するかは別として、時に思いがけず周囲に迷惑をかけるケースもあることは認識しておくべきでしょう。
最大音量
瞬間的な最大音量(dB)のレベルが高いと、寝ている赤ちゃんを起こしてしまったり、耳栓で防げなかったり、いきなりでビックリもしますので迷惑を感じやすいです。
私の実例を挙げれば、薪割の衝撃で生じる地響き+音がそれです。この最大音量を減らせれば、より迷惑しにくくなると考えられます。
継続時間
瞬間的な大音量・衝撃がなくとも、時間に対する平均dBが高ければ迷惑と感じやすいです。そりゃあ長時間ずっと音が鳴っていたら迷惑なのは当然ですよね。
これまた常識にも個人差がありますが、住宅街では1時間程度、長くても2時間程度にしておくのが無難ではないでしょうか。
事情により長時間の作業になる場合は、先に書いたとおり事前に周囲に声をかけておくほうが無難です。
住宅街での問題を少しでも改善する根本的な方法
薪割り・薪作りの騒音問題は、これまでに書いた内容を見直せば「ある程度」は改善できると思います。dBが小さい電動チェーンソーを使ったり、時間帯を気にかけたり、事前に声がけをしたりなどですね。
しかしそれらは対症療法手的な方法であって、根本的な方法ではありません。最後により大枠の、根本的な方法についてとりあげたいと思います。
完成した薪を買う
どんなに気を使っても住宅密集地での薪割り・薪作りの迷惑は避けられません。
そんな時の根本的な解決方法であり、最良の選択肢は、薪割り・薪作りをしないこと。つまり完成した薪を購入することです。斧やチェーンソーも使わないのでまあ当たり前ですが。
信頼度の高いプロが作った薪であれば、薪自体の品質も担保されます。適当に作る薪と比べ臭いも抑えられる可能性があり一石二鳥と言えるでしょう。
もちろん、その分お高いと思います。
とは言え後述するような煙×音で、負の相乗効果が発生することもめずらしいことではありません。であればいっそのこと、良質な薪を買うことは投資とも言えそうな気もしますがいかがでしょうか。
薪ストーブの臭いを減らす
これは利用者の方には分かりづらいかもしれません。
周辺住民が薪割りを迷惑に思う感情は、直接的な音・振動だけではなく、薪ストーブ自体に迷惑していることも大きいと思います。
例えば薪割りが始まった際、隣人はこんなふうに思っているかもしれません。
- あぁ、薪割りまた始まった、うるさいなぁ
- 「オラオラ燃やすぞ宣言」のようで攻撃されてる気になる
- いま作られた薪がいつか燃やされ、自分に迷惑をもたらすのだろう
- 薪ストーブ、ほんと臭くて困る
- 割るのも焚くのも全部迷惑、誰もいない山奥でやってほしい
特に感情表現に優れる方なら、薪割り音から芋づる式に瞬時に想起・連想することでしょう。
つまり、そもそもの薪ストーブで強い迷惑を感じているからこそ、連動して薪割りも迷惑に感じがちなのです。そして時にそれは負(迷惑)の相乗効果をもたらします。
ですから薪割り・薪作りを許容してほしいとお考えの場合は、薪ストーブ自体の煙を大幅に減らす努力をすることもぜひご検討ください。
コミュニケーションを取る
相手が感じる迷惑の度合いは、人間関係も非常に大きく影響します。
そもそも人間関係が良好であれば、軽度のことなら迷惑に思いません。逆にそうでなければ、相手の小さなことでも憎悪や憎しみ・恨みの感情がわくものです。
良好な人間関係を築くのに最も重要なことは、日頃のコミュニケーションです。「迷惑になっていませんか?」「どこが特に気になりますか?」と、相手を思いやる気持ちを持ってコミュニケーションを取れると良いですね。
残念ながらすでに人間関係が破綻していたら難しいですが。
まとめ
住宅街での薪割りについて、徹底的に考えてみました。少しでも改善のお役に立てれば幸いです。
しかしながら最後の方で触れたとおり、問題の根本をたどれば薪ストーブ自体が迷惑になっていることが多いと思います。一度でもクレームが来たことがある方は、その点も充分に考える必要があるのではないでしょうか。
最後に私個人の意見を書きたいと思いますが、そもそも住宅街での薪ストーブはどうやっても迷惑は避けられません。それを理解した上で使うのであれば、せめて薪に関しては、信頼置ける業者から完成したものを購入することが最良だと考えます。
薪のコストを削減するには人が少ない適した場所が必要です。住宅街においては、とにかく迷惑をかけないことを優先した方が、長い目で見てメリットがあるのではないでしょうか。
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