これまで寒冷地や山に近い地域、もしくは比較的広い敷地で使われてきた薪ストーブ。しかし昨今では、非寒冷地の普通の住宅街でも設置されるようになってきています。
それに伴い、ネット上には煙や臭いの被害やトラブルの相談が増えているようです。
近所の薪ストーブから煙と臭いがひどい……
洗濯物に臭いがついてしまうので止めて欲しいのですが……
近所に薪ストーブ設置の家があると、こういった悩みを抱える人もいるでしょう。設置=必ずしもそうなるわけではありませんが、様々な要因で臭い・煙の被害を受けてしまうことがあります。私も当初は大きな悩みの種でした。
煙や臭いからは家ごと逃げられませんから、非常に辛いものですよね。
被害のレベルは人それぞれですが、 こういった被害を理由に止めてもらうことはできるのか。どうやって解決していけば良いのかを考えてみたいと思います。
薪ストーブを設置し焚くことは法律上なんら問題無いこと
まずは法律的な面から考えてみたいと思います。大げさと思われるかもしれませんが、問題を考える上で大事なことです。
建築基準法&消防法に準拠していれば設置できる
薪ストーブを設置する際は、建築基準法および消防法に準拠する必要があります。
一般的な住宅はプロが建てますし、薪ストーブの販売・設置会社が係わることも多いはず。したがってそのあたりの法律的には、通常問題ありません。
そもそも建築確認申請が通らないと、家が建てられませんからね。
設置する地域も問いません。寒冷地や地方に限らず、東京都内でも法律上は設置可能です。
例えばお隣との境界線から50cmしか間が離れていないような超住宅密集地であっても、まわりにもっと高い建物があっても同様です。
つまり本当にどこにでも設置できるとうこと。そして薪ストーブが設置されている時点で、基本的に法律に基づいて設置してあるというわけです。
もちろん焚くことも合法
設置がOKということは、もちろん焚く(利用する)ことも合法で、なんら問題無いことです。
日本においては設置の法律を守ってさえいれば、自由に利用することが可能です。
当然ながら、利用の時間帯や頻度も問いません。完全に利用者の思うように薪ストーブを利用することが出来ます。多少の煙が出ていたとしてもです。
法律上、私有地であればバーベキューがどこでもできることと同じですね。
排出される煙や臭いにも法規制は無い
残念なことに、日本は薪ストーブ関連の法規制が大変遅れています。薪ストーブから排出される煙や臭いに一切の規制がありません。
規制が無いので法律的にはなんら問題無い
日本には、悪臭防止法・大気汚染防止法等の臭いや環境に関する法律があります。しかしこれらは工場などの事業場が対象で、一般住宅には適用されません。
排出される煙や臭いに規制が無いということは、常識の範囲内では何でもありということです。
つまりは不適切な利用により多少煙を多く出してしまっても、度が過ぎなければ法律的には問題無しなのです。
事業場だろうが一般住宅だろうが、環境のことを考えれば同じはずですが……。昭和に作られた法律ではありますが、定期的に改正はしているわけですしがんばって欲しいですね。
日本は薪ストーブの法規制が遅れている
例えばアメリカでは、EPA(アメリカ合衆国環境保護庁)という自然環境の保護を目的とする団体があります。日本で言えば環境省のようなものでしょうか。
アメリカでは、そのEPAが定める厳しい排ガス規制があります。第三者による認証制度も導入しており、全ての規制にクリアした薪ストーブでないと販売できません。
外国では激寒地域もあるため、昔から暖炉や薪ストーブが使われてきた背景もあり進んでいるのでしょう。対する日本の法規制は、非常に遅れているのが現状です。
受忍限度を超えている被害が出ていれば別
もちろん、法規制が無くとも「受忍限度」を超えている煙や臭いであれば別です。
受忍限度とは、生活する上で我慢で済むレベルかどうかということ。個人の我慢できるレベルでは無く、総合的に考慮されるものです。詳しくは以下のページをご参照ください。
薪ストーブに限った話ではありませんが、臭いや煙・騒音等のトラブル全般では、以下を参考に受忍限度として考慮されます。
例えば、洗濯物が全く干せないほどの煙で、給気口やそのまわりが真っ黒、すすが飛んでくる、毎日行われており、お願いしても全く聞いてもらえない……などであれば十分根拠になるでしょう。
とは言えそれを当事者のみで白黒つけることはできません。弁護士を交えた法的な手続きとなれば、困難が伴います。
できればご近所トラブルで、弁護士のお世話にはなりたくないですよね。
公的機関の対応はまちまち
公的機関に助けを求める手も一応はあります。ですが現実には期待薄です。
警察
警察は民事不介入が基本です。地方の地元に根ざした所なら話は聞いてくれるかもしれませんが、基本的には「話し合って下さい」となるでしょう。
消防
消防は火事やそれに繋がる場合でないと動きません。
「かなりの煙が出ている」「火災が起こりそうで恐い」と言えば見に行ってくれはするでしょう。また、気をつけるよう注意もしてくれるかもしれません。
実際に煙道火災に繋がることもあるので、本当に危ない・恐いと思うような煙がでている時はそれもありです。
逆にたいして危険性が無い場合は、通報するのは難しいでしょう。
役所
役所に連絡をして調査・改善してもらうというケースもあります。ですが法規制がないため、やはり強制はしづらいようです。
加えてネット上の口コミをみると、役所によって対応が違うのもめずらしくない模様。時には良い仕事をする例もあるようですが、全くダメダメで対応してくれないところもあるようです。
結論:基本はお願いして臭いを改善してもらうこと
ですで結局のところ薪ストーブ問題は、
が基本になってきます。頭が痛い問題ですね。
焚く権利もあって規制もなければ、こちらはお願いする立場
日本という法治国家に住まうからには、感情論ではなく、まずは法律から物事を考えなければなりません。
法的に焚く権利があるのですから、実態はどうあれこちらはお願いする立場です。
例え利用者の使い方が間違っていたり、メンテナンス不足だったり、設備の不具合などが原因だったとしても。
単に臭うというだけで「住宅街で薪ストーブを使うのを止めてください!」という権利はありません。
せめて排ガスの規制など、環境先進国に追いついてほしいものですね。
改善してくれるかどうかは相手次第
こちらにどれほど被害があったり、苦痛を感じていたりする事実を相手に伝えても、それでどう対応するかは相手次第です。
平謝りで誠心誠意改善に向けて努力してくれる人もいれば「何言ってんの」的に聞く耳を持たない人もいるでしょう。いろんな人がいますからね。
ですので
と言えるでしょう。大半は善良な住民だと思いますが、話の通じないおかしい人だと大変ですね。
どんなに被害があっても感情的になってはだめ
相手次第と言っても、こちらにもできることがあります。それはお願いの仕方を考えること。相手は人間ですから、言い方によって結果は大きく影響します。
声を大にして言いたいのは、いくら煙や臭いで被害があると言っても感情的になってはダメだということです。
こちらが感情的な発言をすれば、相手も感情的になってしまう可能性が高まるでしょう。センシティブな内容につき、ちょっとした言い方一つで嫌悪感・敵対心を抱かせてしまいかねません。
薪ストーブは時に単なる暖房器具以上のもの
被害に遭う側には分りづらいことかもしれませんが、利用者にとって、時に薪ストーブは単なる暖房器具以上のものとなり得ます。
趣味だったり、料理に使ったり、心の安らぎだったり、裕福の象徴だったり、愛すべき対象だったり。つまりは趣味や嗜好も含まれます。
100万単位の大金を投じて設置していますし、ましてや法律的に認められているもの。
一方的に否定したり、使用の停止を求めると、「使う権利があるんだ!」と態度を硬化させてしまうかもしれません。一度そうなってしまうと、聞く耳持たなくなるのは目に見えています。
「北風と太陽」の北風のように、無理に目的を達成しようとすると失敗することがあります。
できるだけ穏便に話し合いで解決することが大事
したがって薪ストーブの被害・トラブルはできるだけ穏便に解決することが大事だと思います。
ほとんどの場合、その地域で長期間、下手すれば一生近くに暮らす相手です。何かとお付き合いすることもあるかもしれませんしね。
クレームをつけるというよりは、話し合いをする姿勢が良いと思います。もちろん、話が全く通じない人もいるのでその場合は例外ですが……。
法律に訴えることもできるがあまりお勧めできない理由
先ほどのとおり、受忍限度を超えている場合は法律的に訴えることも可能です。しかし、よほど話の通じない人が相手でないと、あまりお勧めできない方法です。
解決できなかった時が最悪すぎるから
特に裁判などに発展してしまうと、その時点で勝ち負け勝負の世界になります。お互いが自分の主張を通そうと、自分の正当性を主張する。結果、相手を憎みあう関係に発展するでしょう。
それで勝てばまだ良いです。もしも負けてしまったら、その時点で相手の主張が認められたということ。つまり堂々と薪ストーブを使われることになります。
これまでと同等であればまだましです。人によっては、「もう言ってこない」と考え、遠慮さえ無くなる可能性もあります。憎しみ合う関係であれば、特にそうなりやすいでしょう。
臭いは証拠集めが難しいから
法律で解決しようとすると、被害を受けている証明・証拠が必要です。臭いは個人の感覚的なものですので、それを可視化するには成分を測定する必要があります。
業者に依頼する場合、いつもモクモクしているような場合なら計測しやすいですが、実際はそうではありません。その日の風向きだって違います。
思うような結果が出ない場合は繰り返し計測することになり、金額的にも負担が重なります。
個人でも計測可能ですが、ちゃんとしたものを選んで買うには結構な金額が必要そうです。参考までに、私は訴える用途ではありませんが、実態を知るため以下のPM2.5測定器を買いました。(1万円くらい)
いずれにしても、証拠集めにハードルがあります。
実際には記録(日付を添えたメモ・写真・動画)などでも証拠として認められる可能性もあるようです。法律で解決したい人は、とにかく記録することから始めるのが良いでしょう。
ずっと顔を合わせるご近所だから
薪ストーブ問題で悩んでいる人の多くは持ち家だと思います。賃貸なら引っ越せば良いですものね。つまり相手は、ずっと顔を合わせるご近所ということです。
一度裁判にまでなってしまったら、当然お互いの関係は険悪。 勝っても負けても、臭いが改善してもしなくても、気まずい空気は残ります。
最も落ち着ける場所である自宅であるはずなのに、すぐ近くにそんな相手がいるのは、とても快適な暮らしとは言えないでしょう。
悪質なユーザーならやむなし
とは言え、不完全燃焼を放置してまき散らし、言っても改善が全く見られないような悪質な利用者であれば、そうも言っていられません。
総合的に考え、そうするしか無いと判断された場合は法律で解決するしかないでしょう。
それほど悪質な場合は、ご近所でも悪感情を持っている人が複数いるでしょうから、誰かが行動しないと改善しません。
まとめ
薪ストーブはどこでも設置することができること。排煙の法規制もなく、法律的に使う権利があるもの。基本はお願いして臭いを改善してもらうことをご紹介しました。
しかしそのお願いも、趣味や嗜好に絡むものなので難しい……。
こうやって見ると薪ストーブ被害は本当にセンシティブな問題ですよね。
ですが行動しないと事態は改善しません。遅かれ早かれなんらかのアクションを起こさないと現状のままです。
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