受忍限度という言葉があります。一言で表せば「社会通念上、我慢すべき程度のこと」です。
近所の薪ストーブが臭う。
これきっと受忍限度を超えてるよ!?
……と、これまで受忍限度を口にする機会は数多くありました。しかしある時、これは本当に受忍限度の範囲なのか?と思うことがあり、改めて深く考えてみることに。
すると考えていくうち、さらによくわからなくなってきます(汗)。その原因は、自分の感覚的な受忍限度と、法律的な受忍限度の乖離に起因するのだと気づきました。
本ページでは、私が今回改めて受忍限度について考えたことをまとめています。
結論から言ってしまえば、知ったからと言って直接的に役立つわけではありません。しかしながら、何かの判断・行動をされる際のベースの考えとして、参考にしていただければ幸いです。
受忍限度とは!?
先ほどのとおり、一言でいえば「社会通念上、我慢すべき程度のこと」ですがもう少し詳しく書きます。すでにご存じな方は読み飛ばしていただいても結構です。
社会通念上我慢すべきこととは!?
簡単な言い方をすると「人々が生活していく中で、普通に発生することは我慢しましょう」ということです。
というのも、人が生きていれば生活音や臭いが出ることは避けられないからです。
- 料理をすれば煙も出ます。
- 車に乗れば音や排気ガスも出ます。
- 住居を建てれば日中、音も振動も出ます。
- たばこを吸えば煙も出ます。
こんなことをいちいち法律で規制していては、人間が生活できなくなってしまいますからね。だから、ある程度のことはお互い様だから我慢しましょう、ということです。
例えば本ページの対象である薪ストーブも、タバコ同様、法律で認められています。そして普通に使われることを想定して、ごく普通に売られているもの。
だから臭ってきてもある程度は我慢しなければならないのです。
明確な定義は無く曖昧なもの
ある程度ってどれくらい!?
それがすぐ分かれば一番良いのですが、明確な定義はありません。受忍限度は、非常に曖昧なのです。
先ほどのとおり、「社会通念上我慢すべき程度のこと」なら、常識外の煙や臭い、音が発生していればその可能性はあるでしょう。
しかしながら、常識や感じ方は人によって異なるものです。
法的に白黒を付けるのは裁判所
あなたが非常識と思っていることが、相手にっとは常識かもしれません。また、その他の第三者も、人それぞれ違う意見があるかもしれません。
……となると、受忍限度を超えているかどうかはどうやって決まるのでしょうか。
先ほどのとおり、受忍限度は明確な定義は無く曖昧なもの。その曖昧なものにはっきり白黒つけることができるのは、訴訟における裁判所の判決だけです。
誰がどう思おうが、最終的には裁判所(裁判官)の判決が全てです。
現実的な受忍限度は、まずは自分で考えること
とは言え裁判なんて容易にできません。訴訟は最終手段として、まずは自己判断で受忍限度を超えているか考えることになるでしょう。しかしその判断は非常に難しいです。
例えば私は「我が家の状況は受忍限度を超えている!」と体感的に思うことは多々あります。しかし、「じゃあ相手を訴えたら勝てるか?」と思えば、なぜだか私は勝てる気がしませんでした。
受忍限度を超えていると感じたのに何故!?
しかしよくよく冷静に考えてみると、受忍限度と一口に言っても時々でニュアンスが異なることに気づきました。だから、時にこのような矛盾を感じるように思うのです。
これに関しては次項で詳しく書きたいと思います。
受忍限度にも種類がある!?
「受忍限度」とは、薪ストーブ問題に限らず、悪臭・騒音・振動問題などでよく出てくる言葉です。会話や文章の中で普通に使う機会もある(?)と思います。
一緒くたに受忍限度として気軽に使ってしまう言葉ですが、それらは厳密には4つに分類できるのではないでしょうか。
ここでは以下をお題にして、それら4つを説明します。
お題:
隣の敷地の住人がタバコを毎日4~5本吸う。我が家との境界線ぎりぎりで吸うので、自宅にも流れてくる。洗濯物に臭いがつくし、当然窓も開けられないので迷惑を感じている。
一般的な受忍限度
「一般的な受忍限度」は当事者を除く、多くの標準的な思考を持つ人が我慢しなければいけないと感じそうな受忍限度です。
本来の意味の「受忍限度」と近いですが、抽象的なものです。加えて裁判時にどう判決されるかは別の話なのでイコールではありません。
さて、お題の例を考えると、大抵は「迷惑だけどしょうがないよね」となるのではないでしょうか。
- 相手は自分の敷地内で吸っている
- 常識的範囲の本数
- たばこは法律で認められている
- 相手にも吸う権利はある
こういった要素からくるものでしょう。
しかし何らかの変数が変わってくると印象も変わってくると考えられます。例えば喫煙本数が10本・50本・100本と変わっていくとまた違いますよね!?
もしも1日100本もすぐ隣で吸われたら絶対普通じゃない!
被害者の受忍限度
「被害者の受忍限度」は、実際に被害を受けている本人が思う受忍限度です。
いじめと同じで、辛い思いは本人にしか分かりません。本人は相当苦しんでいても、周囲には分からないことが多いものです。
お題の4~5本の喫煙でも激しく迷惑している可能性もあるでしょう。本人だけに分かる、以下の様な辛さもあるからです。
- ショートピースなどの強烈なタバコかもしれません。
- 家に赤ちゃんがいるかもしれません。
- 喘息持ちで想像もつかないほどつらいかもしれません。
- 洗濯物がタバコ臭くなる残念感は体験しないとわかりません。
- 洗濯物一式が洗い直しになる怒りは体験しないとわかりません。
- いつ臭ってくるかわらず洗濯のタイミングに悩むことになります。
- いつ臭ってくるかわらず窓も開けられません。
これらが毎日毎日延々と、自分か相手が死ぬまで続くと考えたらどうでしょうか。お題の程度でも、本人の受忍限度を超えると感じることもあるかもしれません。
このように、被害者の受忍限度は、一般的なそれよりも圧倒的に小さい(超えやすい)ものです。
何気ない言葉や行為が、人を深く傷つけていることもあるのと同じですね。
加害者の(思う)受忍限度
「加害者の(思う)受忍限度」は、加害者が「これくらいは普通だから我慢してほしい」と思う受忍限度です。もっとも自分が加害者という認識すらないかもしれませんが。
いじめと同じで、いじめ側はいじめてるつもりがなかったりしますよね。
加害者は被害者が真にどのように感じているか、解るはずもありません。被害者が黙っていればもちろんですが、被害を説明されても被害者の辛さが100%伝わることは無いでしょうから。
むしろ加害者はこう感じてしまうことが多いと思います。
- 法律で許可されている
- ヘビースモーカーというわけでもない普通の吸い方
- であれば自分の敷地内で吸うのは勝手
論理的に考えても筋は通っています。
だからこそ被害者の訴えが「面倒臭い」「神経質だ」と感じることでしょう。そういった気持ちで対応していれば、被害の主張も話半分にとらえてしまうかもしれません。
ひいては「これくらい我慢してほしい」「お互い様でしょ」と、受忍限度の範囲だと主張しがちになります。
客観的に考えると、加害者の思う受忍限度は、一般的なそれと同等か、それよりも甘くなる可能性があると考えられます。
法的な受忍限度
「法的な受忍限度」は、裁判の判決によるものです。訴訟において、裁判所(裁判官)が、総合的な観点から受忍限度を超えているかを判断します。
厳密な意味での受忍限度はこれになると思います。
よってこのお題では法的な受忍限度かどうかを厳密に言うことはできません。加えてお題の情報も少なすぎますし。
……ただ、例え訴訟しても、まず無理なのではないかなぁ、というのが印象です。というのも過去の判例を調べてみると、タバコ関連の判決はかなり厳しいみたいですので。
薪ストーブに対する受忍限度はどうなるのか
先ほど分類した4つの分類ごとに、受忍限度を考えてみたいと思います。
「一般的な受忍限度」で考えてみる
残念なことに薪ストーブの臭さは一般に知られていません。むしろ、販売者やユーザーにより、良い面ばかり強調されています。
そのため以下のようなイメージを持つ人が多いようです。
- おしゃれ
- 暖かそう
- エコでロハスでカーボンニュートラル
- 高価なものは正しく使えば臭わない
そのため、「住宅街でごく普通に冬場毎日薪ストーブを使っても問題ない」というのが一般的な受忍限度ではないでしょうか(東京23区等は例外かもしれませんが)。
普通の人は不完全燃焼なんて言葉や、その“やばさ”も知らないと思いますので。
非常に残念ですが、こんなんなものではないかと。。私も今の家に住むまでは臭うことすら知りませんでしたので。
「被害者の受忍限度」で考えてみる
被害者として考えてみると、薪ストーブは迷惑他なりません。人のいない山奥でやってほしいと思うシロモノです。個人の受忍限度は余裕でオーバーという方が多いのではないでしょうか。
以下は薪ストーブ被害者ならよく知っていることです。
- 乾燥した薪を使っても臭いはある
- 風向きにより煙が直撃することがある
- 時に不完全燃焼を起こし強烈な悪臭をばらまく
- 洗濯物に臭いがつく
- 室内にいても臭いが入り込んでくる
- 臭いで起こされる・臭いで眠れない
- 給気口フィルターがものすごいスピードで黒くなる
アナログな物なので、下手くそな利用者が使ったら最悪なものになります。
しかもシーズン中は毎日・何時間も使われることはめずらしくありません。下手すると10月~5月くらいまで使われることもあるのです。
特に不完全燃焼の煙直撃は最悪レベル。傷害と言っても過言ではありません。
「加害者の(思う)受忍限度」で考えてみる
先ほど書いたとおり、加害者が思う受忍限度は、一般的な受忍限度と近いもの。ただし当事者なのでやや自分に甘くなりがちだと考えられます。
加害者の立場になれば、そう思う気持ちも分からなくもありません。
- 大金をかけて設置しています
- 法的に使って良いものを設置しています
- 暖房目的として普通に売られているものです
- 個人の敷地内で利用しています
論理的に考えても、普通に住宅街でも薪ストーブは普通に使ってOKと解釈できます。おそらく多くの薪ストーブユーザーさんもそう思っているでしょう。
これに対し「臭うので改善して欲しい」等とクレームが入ると、個人の感情も加わります。
使って良いものなのに……。これくらい我慢して欲しいです。神経質だなぁ。
どれだけ辛いかわかってもらえない……。そもそもわかってても止めてもらえない!?
残念ながら、今は本当に被害者にとって厳しい世の中です。
そもそも住宅街への設置を推奨している業者や、法規制しない国に問題があるように思います。
「法的な受忍限度」で考えてみる
先ほど書いたとおり、白黒付けるには訴えるしかありません。ここではどれくらいの例であれば裁判で受忍限度を超えると認めてもらえるかということを考えてみたいと思います。
まずは過去の判例を鑑みることが大事と思い裁判所のウェブサイトで検索してみました。……が、薪ストーブに関する判決例はありませんでした。
よって、どう判決されるかがこれではわかりません。しかたがないので、性質的に似ているタバコの判例を参考にしてみたいと思います。
以下ちょっと長いですが、タバコの煙が受忍限度を超えているとされた裁判例です(2ページに分かれています)。
上記を一度お読みいただければ一番ですが、要約すると、以下です。
- 度重なるベランダでの喫煙でタバコの煙が室内に流れ込んだ。
- 体調悪化、精神的&肉体的に損害を受けた
- 上記を理由に150万円の損害賠償を請求した。
- これに対し裁判所が不法行為として認めて慰謝料5万円を認定した。
これを見ると分かるのは、
- 受忍限度を超えている様を、説明の為に客観的に証明する必要がある
- 原告は喫煙被害ややりとりの記録をとっていた
- タバコの煙が有害なのは周知の事実なのに、被害は軽視される
- 結果受忍限度と認められても損害分は5万円にしかならなかった
被害者は相当つらかったことでしょう。しかもタバコの煙は世間的にも有害なことは明らかなのに、精神的損害としてたったの5万円相当。
よっぽどでない限り、薪ストーブも損害賠償金はとれそうもありません。
薪ストーブの煙問題も、タバコ同様おそらく厳しい問題になると思います。時間もかかりますし、万一敗訴したときの弁護士費用を考えたらぞっとします。
とは言え、程度があまりに酷い場合は、泣き寝入りせずに視野に入れるのはありかと思います。
実際問題、私たちはどうすれば良いか
受忍限度の種類を知ったからといって、私たちはどうすれば良いでしょうか。それは個人の被害状況によりますのでケースバイケースと言えます。
法的な受忍限度を超えているかもしれないと予想される場合
法的な受忍限度のレベルを超えるには、よっぽどのことである必要があります。超えている可能性がある場合は、まずは記録を取りましょう。
きちんと記録を付けておくことで、もしもの裁判時にも有利になります。
例えば以下などの記録をメモっておくとよいと思います。
- 臭いの発生した日時・天気・気温
- 臭いの強さ
- 臭いの継続時間
- 加害者との会話の内容
- 被害の写真・動画
タバコ判決例の時もそうでしたが、被害者は記録に取っていたことが功を奏したようです。
れっきとした記録や証拠があれば、薪ストーブでも受忍限度超えを勝ち取れる可能性はあると思います。
現実的には、裁判を行う金銭面・心理面のデメリットが大きすぎますけど、時間や資金がある方はご検討ください。
個人の受忍限度は超えているけれど裁判はしたくない
実際にはこのケースが多いのではないでしょうか。個人の受忍限度は明確に超えているけれど、以下の様に思う方です。
- 絶対に法的な受忍限度を超えているかは解らない
- そもそも訴えるのなんて嫌だし面倒臭い
私もこの部類に入りますが、同士がたくさんいると思います。
どうすれば良いかと言えば、極論を言えば以下の3つしかないように思います。
- 問題解決を試みる
- 我慢する
- 引っ越す
私も1を必死に試みましたが、残念ながらもう効果はありません。実質2の我慢を強いられている状態です。
逆に言えば、1がまだ有効であれば交渉していくことが重要だと思います。
交渉はめっちゃストレスですが、言わないと良くなりませんので!
個人の受忍限度は超えていないけど迷惑している場合
こんな時でも、ぜひ加害者に声がけしてみてください。加害者がまったく気がついてない……というケースもありますので。
「迷惑だ!」「非常識だ!」などのような攻めるような声がけはよくありません。大抵はやんわりと伝える方が良いでしょう。
本来使用者がそうあるべきですが、薪ストーブは何よりコミュニケーションが大事です。まずは挨拶や、雑談などからコミュニケーションを取り、良好な関係を築きながら状況を伝えていくと良いでしょう。
我慢し続け、先に相手を嫌いになってしまうとコミュニケーションも難しくなります。早めにコミュニケーションを取るのがお勧めです。
一度険悪になったり嫌われたりしたら改善は難しくなります。まずは仲良くなることを目標にするのが良いと考えます。……私はこれができなかったことを後悔しています。
まとめ
本ページでは、受忍限度について私が調べ、考えたことについてまとめました。
漠然とした受忍限度も、分類ごとに分けることで腑に落ちやすくなったのではないでしょうか。
被害者側は、辛い思いからついつい怒りを爆発させがち(=受忍限度オーバー)です。しかしながら、利用者の受忍限度を考えることでまた俯瞰して考えられることもあるかもしれません(迷惑なことには変わりませんが)。
本ページの内容は直接役にはたちませんが、論理的判断の参考にしていただければ幸いです。
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