薪ストーブは焚きつけ時に比較的多くの煙が出ます。しかし煙は、煙突から出てものの数秒で全く見えなくなります。
最近改めて思うこと。それはこの「煙はすぐ見えなくなる」ということが、薪ストーブのご近所問題を難しくしている原因だということです。
例えば逆に、消えない煙で臭いの強さに応じて色が変わるとしたらどうでしょうか。これなら煙と臭いも一目瞭然です。利用者さんにも分かってもらえるのになぁと思うのです。
本ページでは、そんな「煙はすぐ見えなくなる」ということに起因する問題について、利用者側・被害者側の両視点から考えてみたいと思います。
薪ストーブの煙がすぐに見えなくなる理由とその影響
そもそも薪ストーブの煙はなぜ出てすぐに消えてしまうのか。そして消えることによってどのような影響があるのかを見ていきたいと思います。
蒸発・拡散・希釈等により、秒単位で見えなくなる
薪ストーブの煙には、薪を燃やしたときに発生する様々な成分が含まれます。完全燃焼に近づくほど、煙は以下の成分が多くなります。
- 水蒸気
- 二酸化炭素(CO2)
薪自体に必ず水分が含まれているのですから、水蒸気が出るのは当然ですよね。
白っぽく透明感のある煙は、特に水蒸気が多い煙です。やかんから出た湯気がすぐ蒸発するように、水蒸気を多く含む煙はすぐに蒸発して見えなくなります。
いわずもがなですが、二酸化炭素はもともと目に見えません。そのためこれが最も早く見えなくなる煙です。
要はきちんと燃えている、一番良い煙ということです。
反対に、不完全燃焼に近づくほど以下のような有害物質が多く含まれます。
- 揮発性有機化合物(VOC)
- 多環芳香族炭化水素(PAH)
- 粒子状物質(PM おなじみのPM2.5等も)
- 一酸化炭素(CO)
※参考情報:木質バイオマスストーブ環境ガイドブック(環境省発行)
これらは黒や青っぽい色の濃い煙で、色が濃いほど(透明感が無いほど)有害物質が多いと考えられます。
煙内の水蒸気は白い煙と同様にすぐ蒸発。その他の有害物質は、大気に拡散・希釈して見えなくなります。体感的には、完全燃焼の煙よりはやや遅れて見えなくなる印象ですね。
いずれにしても共通するのは、秒単位というわずかな時間で目に見えなくなることです。
煙は見えなくなっても臭いは無くならない
見えなくなったら臭いも消えてほしいのですが、実際には当分臭いが残ります。これはタバコの煙と同じことです。
煙は風に乗って少しずつ広がりながら臭いが薄まっていきます(拡散・希釈)。
コーヒーにミルクを垂らした際、混ぜなければモヤモヤと少しずつ広がりますよね。
煙も同様で、自然環境で拡散・希釈するにはそれなりに時間がかかるものなのです。
特に臭いが薄まりづらいのは不完全燃焼の煙です。有害物質を多く含むため、煙の濃度が濃く、臭いが薄まるまでに比較的多く時間がかかります。
というわけで目に見える煙はごく一部。むしろ目に見えなくなってからが煙(臭い)の本番と言ってよいでしょう。
気流や大気拡散により、生活エリアにも降りてくることも
煙は目に見えなくなっても大気中を拡散・希釈しながら広がる、と先ほど書きました。例えば拡散・希釈がまだ充分でない状態で生活エリアに煙が降りてしまえばどうなるでしょうか。
いうまでもなく、周辺住民が臭いとして感じることになります。実はこれ、薪ストーブ設置宅付近ではごく普通にあることです。
特に不完全燃焼の煙だと、拡散・希釈に時間がかかるためこういった状況が発生しやすいと考えられます。あとは建物付近に流れる特有の気流により発生することもありますね。
いずれにしてもそうなると、見た目の煙は上がっているのに周辺が臭うという状況が発生することになります。煙の流れについて詳しくは、以下のページでより詳しく解説していますので参考にしてください。
利用者は目に見える煙の流れを気に掛けるしかない
とは言え薪ストーブを利用する側としては、目に見える煙の流れしか知ることはできません。どのように拡散しているかなど分からないのですから当然です。
薪ストーブの利用者側にできるのは、ドラフトを強くする努力をすること。その結果として、目に見える煙を上昇させることです。クレームでも発生しない限り、まずは見える煙の流れを気に掛けるしかないですから。
しかし先ほどのとおり、見える煙はごく一部です。これがご近所問題に繋がってきます。
利用者視点での、見えない煙のクレームへの対処について
例えば薪ストーブ利用者が、ご近所からクレームを受けたとします。これに対処する課程で、「見えない煙」に起因する問題を取りあげてみたいと思います。
クレームを受けたときの反応
まずクレームを受けた時の利用者側の反応として、以下の3つが考えられます。
- そんなばかな、煙は上がってるしあり得ない(信じない)
- 本当に!?煙はあがってるんだけど臭うんだな(疑問を感じつつ信じる)
- 迷惑をかけていたんだな(完全に信じる)
1は、煙に対する知識が少ない人・思い込みの強い人ならあり得ます。高性能な薪ストーブと煙突を使っているのにそんなはずはないと。あとはクレームの伝え方に問題があるときも、感情的にそうなってしまうかもしれません。
2・3の違いは、疑問を感じつつ信じるか、完全に信じるかのどちらかです。自分では迷惑をかけていたつもりが無く、理由もよくわからないなら2となるのではないでしょうか。
クレーム内容は被害者の言うことを信じるしかない
ここでは1の信じない人(対応しない人)は問題外として置いておきます。
とにもかくにもご近所からクレームを受けた場合、大抵の良識ある人は改善を試みるでしょう。相手が臭うと言っているわけでし、嘘をつく理由はないですから。
しかしその対象は目に見えない煙(臭い)です。見えないものを改善するのはとても難しいこと。自分で臭いを感じ取れるわけではないですし、対策を試みても改善されているかさっぱり分からないからです。
改善したつもりでも、被害者側からまだ臭うと言われれば終わりません。「まだ臭うのか……」と相手を言うことを信じるしかないのです。
相手に対して疑念が生まれることも
見えない煙を相手に、利用者もいろいろと努力をするでしょう。しかし薪ストーブのプロでも無い一般人の努力には限界があります。いくらがんばっても相手から臭いと言われるかもしれません。
そんなとき、相手に対し疑念が生まれるのではないでしょうか。
本当にそんなに我が家の煙が臭っている?この人が神経質なだけなのでは……
もしくは他のお宅や、野焼きの臭いを勘違いしているのでは……
特に高性能な薪ストーブ本体を導入し、煙突などにお金をかけているほど、相手の問題かもしれないと思いやすいと思います。
しかし実際には本当に被害者はすごく悩んでいる状態かもしれません(もちろん本当に神経質な場合や勘違いの場合もあるかもしれません)。
とにもかくにもここで言いたいのはただ一つ。利用者は被害者の気持ちを理解するのは難しいということです。それもこれも、煙や臭いが見えないことに起因するわけですね。
私も神経質なヤツだと思われているかもしれません。でも、少し臭うどころでなくすごく臭うのは家族みんな同じ意見です。伝えられないのが悔しいです。
被害者視点での、見えない煙のクレームの難しさについて
次に、薪ストーブ被害者側からの「見えない煙」に起因する問題を取り上げてみます。焦点となるのは、臭いの程度や、臭う事実を伝えづらいということです。
あくまで“自分には臭う”ということしか伝えられない
現状の臭いを分かりやすく伝えるためには、以下のような項目を説明すると思います。しかし言葉で伝えるのはなかなか難しいことです。
- どんな時に臭うか
- どれくらい臭うか
- どういった範囲・場所で臭うか
どれくらい、というのはとても抽象的です。しかもそれらは主観であって、客観的な臭いの強さを伝えられるわけではありません。臭いの強さを示す根拠や証拠を出すことは、なかなかできないのです。
煙が入ってくる量をぽんと提示できればいいのですが……
客観的に示せなくもないが、波風を立てることになる
実は証拠を出せないというわけでもないのです。例えば以下のようなものです。
- 真っ黒な給気口フィルター
- ベランダに落ちている煤塵
- 臭いまみれの洗濯物
- PM測定器の数値
しかし、これらを出せば分かってくれる……とは限りません。真っ黒な給気口フィルターや落ちている煤塵を見てもらっても、証明することはできないからです。
これ、本当に我が家の薪ストーブだけが原因なの!?
と思われてしまい、むしろ全て人のせいに決めつけられているかのよう。感じ悪く思う人もいるでしょう。
臭いまみれの洗濯物を嗅いでみてください、というのもちょっと……。人様の洗濯物を嗅ぐのはなんとなく相手も躊躇しそうですし、ただ洗濯物を汚されて怒っているようにも感じます。
最後のPM測定器は、客観的な数値なので一見良さそうです。しかし、
うわ、PM測定器を買ってまでクレームつけてくるなんて神経質な人だな。そもそも我が家の煙のせい!?
と思われてしまう可能性もあります。
つまりこれらは必ずしも証拠になるとは限らないということ。むしろ波風を立てる行為にもなり得るのです。
もちろんそれが効果的なこともあるかもしれません。しかしうまく行かなかった場合を考えると、被害者側としてあまり使いたくないのが現実です。
信じてもらえなかったら打つ手無し
煙が降りてきて臭うんです
煙は上がっているのが見えるし、臭うわけがない
このように薪ストーブ利用者さんに思われてしまうこともあるでしょう。そもそもの臭いがあることを信じてもらえなくてはどうしようもありません。だって煙が見えないのですし、証明できないからです。
先ほどのPM測定器を持ち出せば良いかもしれません。ですが、臭うわけがないと思っている相手に無配慮に測定器を突き出しても、話はこじれるだけでしょう。
つまり信じてもらえなかったら打つ手無しの状態になってしまうのです。
神経質だと思われてしまっても打つ手無し
被害があることを信じてもらえれば、協力してくれる良識ある薪ストーブ利用者さんはきっと多いはず。しかしそれも、臭いが改善されないと雲行きが怪しくなってきます。
利用者さんも、だんだんとできる対策が無くなってきます。対策しても臭いとなると、単に相手が神経質だと思われてしまうこともあるでしょう。
常識的な煙にもかかわらず過剰な対策を強いられているのでは……
……と思われかねません。そうなると、例え本当に臭いが強かったとしても対応してもらえなくなる可能性があります。
一度神経質だというレッテルを貼られてしまったら最後。被害者側としては打つ手無しの状態になってしまいます。
まとめ
煙がすぐ見えなくなることが、薪ストーブ問題を難しくている。ここまでお読みいただけた方にはよく分かると思います。利用者側としても、被害者側としても、見えない煙が相手なのは困ったものです。
とは言っても煙が見えなくなるのは自然現象ですから文句を言ってもどうしようもありません。
私たちにできることは、利用する側も被害を受ける側も、双方が正しい知識を身につけること。そして利用者は被害者の立場になって対処すること。被害者も上手に説明して理解を求めることだと思います。
現実問題として、被害者側も必要以上に煙と臭いの改善要求はできませんね。神経質だと思われて匙を投げられてしまうのが一番困りますので。
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